バイオメタン生産グループ
嫌気性微生物を用いたバイオマス利活用
今までに取り組んだテーマ
- 下水汚泥と地域バイオマスの共消化
- 下水汚泥の高濃度消化
- 担体(炭化物、MOF)
- メタン発酵前処理(水熱反応、エタノール化)
- 膜分離嫌気性消化(AnMBR)
- 水素発酵
- バイオエタノール生産
- バイオメタネーション
- ライフサイクルアセスメント(LCA)
メタネーションの社会的背景
メタネーション反応
4H2 + CO2 → CH4 + 2H2O
合成メタン(e-methane):再エネ由来水素から生産したメタン ※日本ガス協会
2050年カーボンニュートラルの実現
第6次エネルギー基本計画(2021.10.22)
- 非電力部門は、脱炭素化された電力による電化を進める
- 電化が難しい部門については、水素や合成燃料などを活用
して脱炭素化をはかる

図1 2050年ガスのカーボンニュートラル化の実現に向けた姿
(日本ガス協会)
メタネーションの種類
表3 メタネーション方式の比較

- 触媒メタネーションは発電所や焼却工場など、規模の大きいメタネーションに有利と考えられる。
- 現時点でバイオメタネーションは、嫌気性消化(メタン発酵)との組み合わせが適していると考えられる。

図2 メタネーションシステムのイメージ
バイオメタネーションの市場性

図3 下水処理施設への消化槽導入件数
下水処理施設への嫌気性消化の導入は、伸びしろのあるビジネスといえる。


図4 下水処理施設の消化ガス発電賦存量
消化ガスCH4濃度を60%→90%にアップグレードすると、賦存量は発電量として6500GWh/年*となる。
※両グラフとも平成28年度下水道統計に基づく
※日本の全発電量(2019年度863,000GWh)の0.8%
バイオメタネーションとは
バイオメタネーション反応
4H2 + CO2 → CH4 + 2H2O

図5 バイオメタネーションのイメージ
- 触媒法と同様、水素と二酸化炭素を基質として進行する。
- 水素濃度が低い場合などは、酢酸を経由する反応もある。
- リアクタ温度はメタン生成菌の活性から、37、55、65℃で運転される。

図6 嫌気性消化プロセス
水素資化メタン生成反応

図7 Wolfeサイクル
表1 バイオメタネーションのGibbsエネルギー(pH7)

表2 水素資化メタン生成菌(Metanogens)の例

バイオメタネーションのフロー

基質の消化とメタネーションを同じ反応槽で行う。
- 1槽で高濃度バイオガスが得られる。
- 水素により消化反応が阻害される恐れがある。

基質の消化とメタネーションを別々の反応槽で行う
- 高負荷運転やメタネーションに特化した装置形状が可能

写真1 富士市東部浄化センター(神鋼環境ソリューションHP)
https://www.kobelco-eco.co.jp/topics/news/2018/20190327.html

写真2 Store&Goプロジェクト(スイス,基質:バイオガス)
https://www.storeandgo.info/demonstration-sites/switzerland/index.html
バイオメタネーションの技術課題
表3 気体の水中飽和濃度

- 水素の飽和濃度は二酸化炭素の約1/40
- 水素資化メタン生成菌の水素利用速度は速く、かつ飽和定数も小さい
バイオメタネーションに関する報告の多くが、水素の液中への効率的な溶解が課題であることを指摘している
※1:(社)日本化学会, 化学便覧 基礎編 改訂5版, 丸善株式会社, 2004, pp. Ⅱ-144-146;モル分率、25℃、1atmに記載の水への溶解度から算出
バイオメタネーションリアクタの運転・評価指標
- 水素容積負荷(L/L/d)=投入水素量(L/d)÷リアクタ容積(L)
- ガス滞留時間(d)=
リアクタ気相部容積(L)
投入ガス量(L/d)+出口ガス量(L/d))÷2
- メタン生成速度(MER)(L/L/d)=出口メタン量(L/d)÷リアクタ容積(L)
- 水素変換率(%)=100-出口水素量(L/d)÷投入水素量(L/d)×100
- 出口メタン濃度(%)
リアクタ形状

- リアクタ形状の方向性は収束しつつある。
- 他にも加圧リアクタ、パイプ型リアクタなどが提案されている。
- その多くが気-液-微生物の接触に着目した内容である。
図10 各種バイオメタネーションリアクタA:完全混合反応槽(CSTR)、B:気泡塔リアクタ、C:固定床リアクタ、D:散水床リアクタ、E:中空糸膜リアクタ(MBfR)、F:微生物燃料電池システム(BES)
出典:C.-Y.Lai,L.Zhou,Z.Yuan,J.Guo,“Hydrogen-driven microbial biogas upgrading Advances challenges and solutions,”Water Research,197,p.117120,2021
リアクタ性能に関する研究開発状況
表4 各種リアクタにおけるバイオメタネーション性能(ex-situ)

※高温の方が変換能が高い、という報告の方が多い。
※近年は散水床(トリクルベッド)が増えている。
※現状の最高値は水素負荷40 L/L/dくらいと考えられる。
※1二酸化炭素変換率、※2全ガス量、※3出口メタンの値を4倍した
出典:杉本裕,古崎康哲,他: 二酸化炭素有効利用技術 ~DACから物質合成、産業利用まで~,㈱エヌ・ティー・エス,pp.137-145(2022.5)
バイオメタネーション性能向上に関する因子
図11 リアクタのイメージ
- 水素溶解速度
- ガス滞留時間
- 気相部混合特性
- 微生物(菌叢)

基本的な考え方
水素は液中に溶解しにくい
気相部を無視できない
メタン菌の水素親和性は高い
水素は液中に溶解しにくい
液相中の水素濃度はほぼゼロ
メタネーションの律速は
水素溶解
水素溶解に関する指標:kLa、CS
図12 水素溶解に関する指標
水素溶解速度:dCH2dt = KLa(Cs,H2 - CH2)Cs,H2:液中の飽和水溶濃度(mg/L)CH2:液中の溶存水素濃度(mg/L)

kLaの目標

図13 リアクタモデル

式1 水素、二酸化炭素、メタンの物質収支式
※水素の溶解が律速であるとして、微生物反応式を省略する

図14 シュミレーション結果
高負荷で運転するためには高いKLaが求められる
気相部の混合特性について

図15 1槽型(左)、槽列型(右)
気相部が完全混合の場合、
投入ガスの4割がGRTの半分の時間が流出してしまう。

図14 滞留時間の半分までに流出する割合
押出し流れに近づけてショートカットを防ぐことが重要
当センターでの今までの取り組み①
マイクロバブル(2020)

写真3 リアクタ全体写真(気泡塔型と比較)

写真4 MB生成部
写真5
マイクロバブルノイズ
(OKE-MBO4FJ)
微細気泡による溶解効率向上をねらった
結果:水素負荷4.0 L/L/dで出口メタン濃度92%前後
※発泡が多く、十分な稼働時間をえられなかった。
※ノズル部で汚泥が乾燥して閉塞することがあった。
当センターでの今までの取り組み②
霧化(2021)

写真6 超音波霧化ユニット
(IN1-24, 星光技研)
※充円錐ノズルはすぐに閉
塞したため使えなかった。
※詰まらないノズルは水滴
が大きく、効果がなかっ
た。

写真7 蒸留水の霧化

写真8 消化汚泥の霧化
汚泥を微細な水滴にしてガス接触面積の増大をねらった。
※清水に較べるとわずかな量しか霧化できない(粘性、浮遊物)
※一度霧になると、ミストの分離が困難でガスだけの回収困難

写真9 消化汚泥の霧化
当センターでの今までの取り組み③
界面活性剤(2021)
植物由来の界面活性剤「サポニン」を使用した。
※活性汚泥法では酸素供給に効果があることが知られている。

写真10 サイカチからのサポニン抽出方法
- ①サイカチの種子、
- ②種子粉砕後、
- ③サイカチ100 gを24hr浸漬、
- ④サイカチ25 gを0hr浸漬、
- ⑤サイカチ25 gを24hr浸漬、
- ⑥布ろ過
界面活性効果によりkL値が向上し
水素溶解が促進されることを期待した。
サイカチ」、「ムクロジ」抽出物を
使用したが、効果はみられなかった。
当センターでの今までの取り組み④
散水床型(2021)

空塔型(2021)

泡沫型(2021-)

加圧型(2022-)

写真11 その他メタネーション写真
出口メタン濃度
※出口メタン濃度の目標値は90%以上とした。

図17 連続メタネーション実験における出口ガス濃度(2021年度実施分)
泡沫充填型リアクタは実験継続中(水素負荷26 l/l/d、出口メタン濃度90%)
菌叢の変化
次世代シーケンサによる菌叢解析
※16S rRNA(V3-V4),qiime2,Greengene(ver.13.8,97% OTU)
門(phylum)レベルの菌叢
Euryarchaeota(古細菌)
の比率が増加
種汚泥
6%
メタネーション汚泥
24~%31%
※種汚泥:中温消化汚泥

図18 Euryarchaeota門の菌叢(属レベル)
優占種が酢酸資化から水素資化メタン生成菌へと変化した
水素資化菌が少ない消化汚泥でも種汚泥として利用可能
※第57回日本水環境学会年会(2023)発表資料
実験結果からのkLaの算出
- 水素溶解が律速
- 水素資化メタン生成菌の飽和定数は低い
液中の水素濃度はほぼゼロと考えると、水素
消費速度と水素分圧からkLaを算出できる。

図19 水素消費速度と気相部水素分圧の関係
※第58回日本水環境学会年会(2024)発表資料

rt:水素消費量(mol/L/hr)
PH2g:気相中出口ガス分圧(atm)
H:ヘンリー定数(atm/mol/L)
kL:総括物質移動係数(1/h)
※J.L.Vega et.al. (1988) Biotech.Bioeng.を参照に導出

図20 MERとkLaの関係(文献値)
※D.Rusmanis et.al. (2019) Bioengineered
まとめ:バイオメタネーション
- 「e-methane」は気体燃料としてカーボンニュートラル社会で重要
- バイオメタネーションは嫌気性消化施設での普及が期待できる
- 技術的課題は「水素の液中への効率的な溶解」
- 現在の性能最高値:水素負荷 40 l/l/d、当研究室:26 l/l/d
- 性能向上因子:水素溶解速度、ガス滞留時間、気相部混合特性、微生物叢
- 水素溶解指標:a気液界面積、kL界面移動係数、CS飽和濃度
- 実験結果からkLaを算出することができる。